なく、宗庵は、性来理財のみちに長じていた。江戸で、和泉屋をはじめ、その他種々の商売の黒幕となっていずれも利に利を重ね、隠然一つの黄金王国を形づくるにいたった。が、表面へ出ることを好まず、どこまでも蔭にあって金をうごかすだけだったから、江戸の商法の裏面に通じないものにとっては、宗庵は、やはり一介の町医宗庵でしかなかった。
 つまり彼は、いまのことばでいう二重生活を送っていたのだ。巨富を擁しながら、眼立たぬよう眼立たぬようにと、まずしい医者にふさわしい暮らしをした。彼の住まいや日常など、じつに質素なものだった。ある人にとっては、巷《ちまた》の医師柘植宗庵であり、ある人にとっては、いながらにして各種の商売を支配し、ひそかに驚くべき利を上げてゆく、狷介《けんかい》なる江戸の富豪柘植宗庵であった。
 一空さまは、この柘植宗庵の又従弟《またいとこ》であった。宗庵は早く妻を失って、娘のおゆうとふたりでさびしく暮らしていた。宗庵が暗中飛躍をして財を積んだのは、おゆうのためだけであった。そして、いつじぶんが死んでも困らないように、おゆうに商法のみちに通じさせておいたのだった。
 おゆうは、お高の母である
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