うに、いやな顔をしていた。
 侍が立ち去って行ったので、自分も行けるかもしれないと思って、お高は、歩き出した。
 が、ぎょっとして足をとめた。また、通りの向こうに人々の叫び声が沸き立ったのだ。それにまじって、くつわの音がする。馬のいななきが聞こえる。ふりむいて見ると、山のような黒い物が、かぶさるように突進してくる。馬だ。十人ほどの役人が、騒ぎを聞いて馬で駈けつけて来たのだ。手っとり早くしずめるために、遮二無二《しゃにむに》この群集の中へ馬を乗り入れて、蹴散らそうとかかっている。
 ひずめにかけられてはたまらない。人は、算を乱して右往左往する、お高も、走った。が馬は早い。すぐうしろに、馬の鼻息を感じたとき、彼女は、じぶんとならんで逃げている一人の女の児に気がついた。とっさではあったが、何だか、きょう洗耳房で見たことのある児のような気がした。その児は、つとお高を離れて、路地へでも駈けこむつもりだったらしい。往来《みち》を横切ろうとした。その上へ、馬が来た。
 お高の見たものは、馬の下になって額部《ひたい》から血をふいている子供の顔であった。お高は、自分のからだが、そっちへのめったのを覚えて
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