空さまと、あの洗耳房の小母さんはどうしたであろうと、瞬間考えた。

      三

 ぞくっと、寒さが走って、気がついた。屋根からはまだ瓦が降りつづけていた。お高の周囲の人々も、大声にさわぐだけで、誰も、屋根へ上がって行こうとする者は、ないようすだった。
「これはいかん。これでは、いつまでたっても屋敷へ帰れぬ。夜が明けてしまう。まず、あの屋根の上の男を何とかせねば――」
 というのが、お高に聞こえた。となりの、色の白い武士の声だった。彼は、そういって、なにか思案しているふうだったが、何事か思いついたとみえて、面白そうに笑って、仲間へささやいた。仲間は、びっくりして、あわてた大声を出した。
「いけません。殿様、そんなことをなすってはいけません」
「なあに。お前は、ここに待っておれ。すぐ帰る」
 侍は、さらりと羽織をぬいで、面くらっている仲間の手へ押しつけて足袋《たび》はだしになった。しかたがないので、仲間がその履物《はきもの》を拾い上げて、ふところへ入れたとき、さむらいのすがたは、もう人をかきわけて消えていた。
 ことばが、群集の上を、伝わってきた。
「おい、あの野郎は、鷹匠町《たかし
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