に油をそそいだように激昂の度を増した群集に、糸屋の軒下へ押しつけられて、呼吸が苦しくなった。胸わるさがこみ[#「こみ」に傍点]あげてきて、眼まいを感じ出した。が、いまは誰も、ひとりの女なぞに構っている者はなかった。ののしりさわぐ声が、群集ぜんたいにどよめいていた。
「ふてえ野郎だ。誰だ」
「和泉屋の用心棒に相違ねえ」
「おれは初め、町内の者かと思った」
「おれもそう思った。屋根を登る恰好が似ていたから、火消しの鉄公《てつこう》だとばっかり思ってた」
「そうよ。鉄っぺにそっくりだったなあ」
「何せ、この仕返しをせにゃならねえ」
「引きずりおろして、なぐり殺そうじゃねえか」
「おい、誰か上がれ、上がれ」
 お高は、そういう話し声が、だんだん遠のいてゆくような気がした。ほの白い、幕のようなものにへだてられて、すべてが、夢の中へとけこんでゆく感じだ。無意識に、となりの人の腕をつかんでいた。
 腕をつかまれた隣の人は、お高を見かえった。その人は、白い顔をした、二十五、六の武士であった。裕福とみえて、せいの高いからだを、凝った流行《はやり》の衣裳《いしょう》で包んでいるのが、芝居に出る侍のようであ
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