されて、黙っちゃいられねえ」
「昔からのおれたちの商売をどうしてくれるんだ」
「卸し同様の相場はずれの値で張り合って、この辺一帯の小あきんどの口をほそうてんだ。和泉屋は人殺しだ」
「そうだ。和泉屋は人殺しだ」
「やい、人殺し」
「和泉屋をたたきつぶせ」
「門前町から追ん出せ」
「家《うち》ん中へ踏んごんで、品物は、困る者にわけるんだ」
「店のやつらは簀巻《すま》きにして、江戸川へほうりこめ」
そこここにもみあいがはじまった。群集の一部は、素っ裸にねじり鉢巻《はちま》きをした若い衆を先頭に、警戒を破って、和泉屋の大戸へ接近した。和泉屋は、もうすっかり戸をおろして、店員たちは裏口からでも逃げたらしく、家の中はしいん[#「しいん」に傍点]としていた。
お高は、夏の宵の蚊柱がくずれるように、ぶうんと音を発して飛びかわす拳《こぶし》や下駄《げた》や、棍棒《こんぼう》の下をくぐって、しなやかな手をふって逃げまわっていた。逃げまわりながら、その和泉屋襲撃の先達をつとめている、すっ裸の若い衆が、いつも来る酒屋の御用聞きであるのをみとめて、妙にふっと、おかしくなった。彼の背中には、一めんに大きな牡丹
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