いる。鬱々《うつうつ》として、いまにも何かはじまりそうな気分である。金剛寺門前町は、危機をはらんだまま、表面しずかに風にまかせている。
何か大声に呼ばわりながら、走って来る人がある。町内の世話役らしい。あちこちの店から人が駈け出て来て、一団になって、なおも人を集めて行く。やがてそれらが通りの中ほどにある会所へどやどや上がって行ったのは、それから相談でもあるのであろう。
群衆が、そこの入り口にあふれて、ののしりさわいでいた。あらたにできた万屋《よろずや》対小商人の確執が燃え上がろうとしているのだ。生活を脅威された金剛寺門前町の小あきんどたちが共通の恐慌によって、こうして団結し、画策しつつある。不穏な状態である。
お高は、それに気がついたが、さっきの続きで心がいっぱいなのだ。もう一度きいた。
「何がそう合点がいかないのでございます」
一空さまは、周囲の物騒な空気も意識しないようすだ。お高の声で、現実へ引きもどされた。
「何が合点がゆかぬといって、――それほど合点のゆかぬことはない。あんたの母者人のおゆうさんは、この江戸でも、一、二といわれる大財産を受け継いだのじゃ。が、あんたのいわ
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