お高、お前は何か、一日も江戸を明けられぬわけでもあるのかな」
「いいえ、そんなことはございませんが――」
「それならば、遊山かたがた参詣《さんけい》に行け。おれも行くのだ。一日でも二日でも、土地が変われば気もちもあらたまる。わしに、麦田一八郎に、お前に、歌子に、大久保の――」
「でも、旦那様、お高は参られませんのでございます」
「なぜだ」
「なぜでも参られませんのでございます」
「だから、なぜだときいておるのだ」
お高は、しばらくうつむいていた。低い声でいった。
「旅をしては悪いのでございます」
「旅をして悪い――?」
「はい。旅をしては悪いからだなのでございます」
若松屋惣七は、その意味を考えて、うかがうようにお高のほうへ顔を向けた。
「そうか」
と、いった。お高は、膝で歩いて、若松屋惣七のほうへ寄って来ようとした。若松屋惣七が手を出してそれを助けたので、ふたりはすぐ畳のうえの影を一つにして、じっとなった。それきり、両方とも同じことを考えて、黙っていた。
お高を残して、四人で行くことになったけれど、くるはずの紙魚亭主人もまだ来ないし、大久保の奥様の風邪も思ったより長びいている
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