「ふむ。まあ、気に入っておるな」
「奥様にあそばすお考えですか」
「そうもなるまい。そこが事情じゃ。ただあの心痛の多い女を残してわしひとり面白おかしく旅をする気になれんのだ。このごろは、誰しもちょっと江戸を離れて、田んぼ路《みち》でも歩いてみたくなる季節だからな。わしは、あれに相模《さがみ》の海を見せてやりたい」
「結構でございましょう。では、どういうことにいたしますか」
歌子は、さっぱりした女だ。若松屋惣七のお高に対するざっくばらんな愛を聞かされて、彼女自身ほがらかな気もちになりつつあるのだ。
若松屋惣七のいかめしい顔に、笑いがひろがった。
「都合がよければ、明晩ここへつれてまいる。お前とお高は、きっと仲のいい友達になるであろうと思う。わしが考えると、よく合うところがあるのだ」
「さようですか。それでは、わたくしも楽しみにしております。わたくしのほうは、いつおつれになっても構いませぬ」
「それとなく、龍口寺まいりのことを切り出してくれ。お高は、さびしがっているのだから、すこし厚意をみせてくれれば、すぐなつくことであろう。からだも、あまりよくないようである。何とかして、旅に出したい
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