。その自然木の杖をふって、怒っているように、なかば駈けて行くのだ。いつもこうなのだ。お先手組《さきてぐみ》の組やしきの前に、古びた冠木門《かぶきもん》があった。若松屋惣七は、家を間違わずに、そのくぐりを押してはいって行った。
玄関の前へ出ても、案内を乞《こ》おうとしなかった。そのまま、家について庭のほうへまわろうとすると、窓の障子があいて、女中らしい中年の女が顔を出した。
「どなたでございますか」
それは、面長の上品な女であった。窓のそとに杖を突いて立っている若松屋惣七を見ると、愛嬌《あいきょう》よくほほえんだ。
「歌子《うたこ》さまでございますか」
「おられますかな」
「おられますでございます」
若松屋惣七は、遠慮なく庭へ通って行った。女中は、家の中をいそぎ足に、その歌子という女《ひと》へ知らせに行くようすだった。勝手を知っているので、まもなく若松屋惣七が奥庭の縁さきまで来ると、そこの座敷に、もう歌子が来て待っていた。
「こっちへお上がりなさいましよ」
「うむ。ここで結構だ」
若松屋惣七は、上がろうとはしないで、縁側に腰をかけた。
「いけませんよ。そこでは何ですから、どうぞお
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