上がりくださいまし」
歌子は、三十五、六の武家風の女なのだ。愛くるしい顔だちだが、からだつきは頑丈《がんじょう》で、肩や腕などまるまるとふとっているのだ。膚が陽に焼けていた。
旅心《りょしん》
一
歌子は、肩巾のひろい、色のあさ黒い女だ。せいが高くて、がっしりしている。鳶《とび》いろの眼と、ユウマアのみなぎった、人のいい顔をしてる。この年齢《とし》まで、独身を通してきた。長刀《なぎなた》の名手なのだ。渋川流《しぶかわりゅう》の柔《やわら》もやる。馬も好きで、男のように肥馬にまたがって遠乗りに出たりする。若松屋惣七の従妹《いとこ》である。
庭からまわって来た若松屋惣七を、にこやかに迎えた。若松屋惣七が武士を廃業する以前、ふたりは、伯父《おじ》の家《うち》にいっしょにいたこともあり、何事もうちあけて相談しあうなかなのだ。伯父は旗本だった。いまは歌子の弟が継いでいて、歌子は知行の分米《ぶんまい》で、ひとり者の女としては、かなりゆたかな暮らしをしているのである。この矢来下の家へ来てみると、いつものんきだった。
若松屋惣七は、しばらく歌子を訪れなかったので、
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