てみたいな」
「はい」
「わしは、近くひとりで、旅に出るかもしれぬ」
「あの、おひとりで」
「国平でも供につれようかの、眼の湯治に参るのじゃ」
お高が何かいい出しそうにすると、若松屋惣七は、うるさくなったらしく、気ぜわしく手を振った。
「あああっちへ行け。行け行けと申したら、早く行け」
お高は、若松屋惣七をよく知っているので、は、はい、といそいで答えて、ほほえみをうかべながら、逃げるように座をたった。
若松屋惣七は、雪駄《せった》ばきに杖をついて、金剛寺坂の家を出ていた。その杖は、佐吉が立ち木の枝を切ってきたもので、無骨にまがりくねっているのが、見ようによっては、風流にも見えるのだ。
若松屋惣七は、町人らしい縞の着物にその杖をついて、江戸川を渡って、築土片町《つくどかたまち》のほうから矢来下《やらいした》へ抜けて行った。陽がかんかん当たって、走りづかいの奴《やつこ》などの笑い声のする往来であった。武蔵野を思わせる草のにおいのする微風が、こころよかった。
若松屋惣七の変わったすがたに、行人の眼があつまっていた。彼は半|盲目《めくら》のくせに、がむしゃらに歩いて、足が早いのである
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