おせい様んところでおれの顔を見たとき、あんなに、気を失いそうにおどろいたのだ」
「思いがけなかったからさ」
「江戸は広いようでも、今夜のように、いつどこで誰に会わねえもんでもねえ。おめえは、あの磯屋の旦那と、ほかの家《うち》へもああしていっしょに行くのかい」
「いいえ、おせい様んとこほか、どこへも行きはしないよ。だから、お前さえ知らん顔していれば、それですむことじゃあないか。あたしもあんまりお前に会わないようにするしねえ――」
「会わねえということができるものか。おせい様んとこにいる限り、おれは、いやでも応でも、磯屋の妹になりすましてるおめえを、見ねえわけにあいかねえ。それがおれにあつれえのだ。磯屋さんは、近えうちに、おせい様と夫婦になるというこった。今夜なんかも、まるで御主人様のように、いろんなことをいっていなすったよ。
 その磯屋さんの妹さんてえのだから、おめえも、おっつけおれの御主筋に当たってくる。てえっ、使う身と、使われる身と、親と娘と、それがそう、何もかもめちゃめちゃになっちゃあ、世の中のきまりてえものはどこにあるのだ。人間はみんな、身分を守ってゆけあ、間違えはねえ。な、お駒
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