ておるのか」

      四

「いえ。ただいまは、小普請《こぶしん》お坊主だとか聞き及びました」
「小普請坊主か。しからば、無役だな」
「はい。無役でございます」
「女にでも食わせてもらっておるのか」
 いってしまって、これはすこし残酷だったかな、と若松屋は思った。はたして、お高は、顔を伏せた。べつのことをいいだした。
「いただきますお手当てをためておきまして、月づきなしくずしにでも返してゆきたいと思うのでございますが、でも、二百五十両とまとまりますと、女の腕いっぽんでは、大変でございます。お察しくださいませ」
「それは、察せぬこともないが――」
「はい」
「何とかせねばならぬ。なぜきのう、あの手紙を書いたときに、すぐいわなかったのか」
「申し上げられなかったのでございます」
「ふん。そんな柄《がら》でもあるまいが――」
「申し上げようと思って、申し上げられなかったのでございます」
 お高は、眼を閉じた。あふれ出ようとする泪を、押し返そうとしているのだ。が、一粒、澄んだ泪の玉がまぶたの下を破って出て、黒い、長いまつ毛の先に引っかかっている。
「こんなにしていただいていて、そんなこと
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