気がした。そういう男に対する嫌悪《けんお》と憤怒《ふんぬ》のいろが、白く、彼の額部《ひたい》を走った。同時に、お高に対しては、すこしくやさしい心になったらしい。腕を組んで、庭へ眼をやった。
お高が、いっていた。
「半年ほど、いっしょにいたばかりでございます。つらい半年でございました。あげくの果て、わたくしのお金をさらって、逃げて、おおかた、ほかの女にでも入れ揚げたのでございましょう」
「三年前のことだというのだな」
「三年まえでございます。そのために、立派に払えるはずだった磯五のほうも、払えなくなってしまったのでございます」
「何をしておった。それから、当家へ参るまで」
「あちこち女中に住み込んだりなど致しまして、精いっぱい働いて参りましてございます。良人が、洗いざらい持って行ってしまいましたので、ほんとに、わたくしに残されましたのは、浴衣《ゆかた》一枚でございました。そのなかから、お給金をためて、五両だけ返金いたしたのでございます。ほかにも借りがございましたし、それに、良人の不義理のあと始末や何か――」
「きやつ――というては、悪いかもしれぬが、きやつはいまだに、奥坊主組頭をつとめ
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