かり真に受けて、あたいのいうことは取り合わないのさ。馬鹿々々しい。誰がこんなところにいてやるもんかと思ってね、いいかげんあきてもいたところだったから、ぷいと飛び出しちゃったの。
 お前は、あの吉田屋を御殿のように思っているようだけれど、あんな家、奉公人には地獄だよ。でも、いくらそんなこといったって、お父つぁんは眼の色をかえて怒るにきまってるから、当分あたいのしたいようにしてみて、何とか眼鼻がつくまで、自家《うち》のまえを通っても、知らん顔をしていよう。そのうちこっちから挨拶に出て――」
「待ちな。その吉田屋さんで起こったへんなことてえのは何だ」

      三

「あっ、そのこと。何でも、おかみさんの物がなくなって、あたいの行李《こうり》から出てきたとかいうんだよ」
「とかいうんだとは、まるで他人事《ひとごと》みてえじゃあねえか」
「そうさ。あたいはちっとも知らないことなんだもの。ほかの女中がそっと盗《と》って、あたいの荷物へいれておいて、ないって騒ぎ出したのさ。あたいを追い出そうというんで、一狂言かいたんだよ」
「おめえは覚えのねえことだという証《あか》しを立てて出て来たんだろうな
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