したもので、
「おそかったねえ。戸締まりでも見ていたのかい」
「そうよ。戸締まりをしていたのだ」久助は、娘に対して快《こころよ》くないようすである。「往来《みち》の真ん中で立ち話もできめえ。どこか行くところねえのか」
「そうさねえ。どこへ行ったらいいだろうねえ。お父つぁんは、すぐ帰らなくてもいいの?」
「そう急ぐこともねえのだ。みんなもう寝ているだろう。裏の木戸をあけて来たから、いつでもへえれる。お駒、今夜はびっくりさせたぜ」
「あたいこそびっくりしたよ。久助という新しい板さんが来たということは聞いていたけれど、まさかお父つぁんとは思わなかったよ。歩きながら話そうじゃないか。まだそんなにおそくもないようだねえ」
父と娘は、また黙って四、五間歩いて行った。近くに銭湯があるとみえて、しまい湯を落とした湯気が、溝《みぞ》から白く立ちのぼってきた。それには、人間の膚のにおいとおしろいのにおいがまざって、むっと生あったかかった。
お駒ちゃんは、宵の口におせい様に招《よ》ばれて来たときの服装のままだった。気分が悪いから先に式部小路へ帰るといって、駕籠で出たのだったが、どこかそこらで駕籠をおろし
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