いるときに、戸じまりを見おわった久助である。
 もう家じゅう真っ暗になっていた。
 手ぬぐいで頬かむりをした久助が、あし音を忍ばせてそっと裏口から家を出て行った。暗い夜空の下を、風が渡って、樹の枝がしきりに騒いでいた。枝が揺れさわぐと、やみのなかに黒い影がおどって、冷や飯|草履《ぞうり》をとおして、地面の冷えが、はい上がってきた。
 久助は、もう一度、手ぬぐいですっぽり顔をつつみ直して、音のしないように、おせい様の家にそって拝領町屋の通りへ出た。そこにも風があって、白い紙屑《かみくず》が生き物のように街上《まち》を走っていた。
 下谷《したや》の大通りのほうへ小半丁も下ると、軒なみに暗い家がならんでいるなかに、一軒灯のかんかんついている家があった。通夜でもやっているらしく、読経の声が、もれてきていた。その前の往来にだけ、白い布を敷いたように、巾《はば》のひろい光線が倒れていた。
 久助がそこまで来て、その光のなかにはいって、合図のようにそこらを見まわすと、家の横の路地から、やはり手ぬぐいを吹き流しにかぶった女のすがたがあらわれて久助のそばへ寄って来た。
 ふたりはならんで、黙って歩きだ
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