罪ではございませんもの。そのお内儀さんにいろいろひどい眼に合わされて、お気の毒でしたねえ。こんないい方を、そんなに苦しめるなどと、何というわるい女《ひと》でございましょう。その人が生きていらしっても、わたしの思いはちっとも変わりませんよ。変わらないどころかいっそう――」
「おせい様、それを伺って、安心いたしました。あんなやつでも、まだ女房となっている女が生きておるとすれば、わたしは、ご存じのとおり、こんな馬鹿堅いたちですから、今すぐおせい様にきていただくということは、こころもちが許しませんけれど、ねえ、おせい様、今までどおりに――」
「いままでどおりではいやでございますよ。今まで以上でございますよ」
磯五は、ちょっと部屋のそとへ気をくばって、だれもいないことを確かめると、そっとおせい様の肩に手をまわした。おせい様は、小むすめのように身をよじって、その磯五の腕のなかへとけこんで来た。長いことそうしていた。おせい様は、歯をかみ合わせて、懸命に声を飲んでいたが、なみだが磯五の膝へしたたった。磯五は、何かほかのことを考えながら、顔を上げて、障子の桟を読んでいた。
久助が戸締まりを見て歩く音
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