何です、おせい様、誰のことです」
「あれ、いやでございますよ。お妹さんのお駒さんのことですよ」
「ああ、お駒ですか。よろしくと申して帰りました。いつもよくいい聞かせているのですが、あれも気の勝った女で、商売が忙しくなると、つい何から何まで、一人で引き受けてからだを動かさないと気がすまない性《たち》なので、ときどきやられます。困りますよ」
「ほんとに、お気をつけてあげなすってくださいましよ。わたしにとっても、たった一人の大事な妹でございますからねえ」
おせい様がしんみりそういうと、磯五も、しおらしくうなだれた。おせい様は磯五の問いを思い出した。
「もうすこしおあったかになったら、どこか近いところへ遊びに行きたいと思っていますよ。あなたもおいでなさいましよ」
「いや。いまは店の仕事が立てこんでいて、とても抜けられません。春の仕入れで、いそがしい盛りなのです」
磯五は、家業大事という顔をした。おせい様が、失望をうかべて、すねるように何かいい出そうとすると磯五が、つづけた。
「おせい様、とんでもないことがわかりました。びっくりなすっちゃいけませんよ。家内がまだ生きているんです」
「家内って
前へ
次へ
全552ページ中264ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング