に頭を下げて、ともかく恐れ入ったようすだ。
「はい。伺っております。わっしこそ、よろしくお願い申してえのです」
久助は、どこから見ても、料理人《いたば》の久助らしい人物なので、磯五は安心をした。かなりの年齢《とし》だが、がっしりしたからだつきで、江戸でよく見る、そういう職人らしい粋なおやじである。きれいに顔をそって、銀いろの髪を小さく結っている。
ちらと磯五を見た久助の眼に、何でえ、しゃらくせえ、といいたげな気持ちが走り過ぎたが、磯五は、すっかりいい気にたばこをふかしていて、気がつかなかった。ただ、おせい様は、日々の料理がやかましいので、本職の板場を入れたのだろうが、この久助という老人には、そういう職人にありがちな、庖丁《ほうちょう》一本で渡りあるいて来たといったところも見えないと思って、感心していた。
これなら、きっと長く勤まるだろう。いよいよ抱き込んでおかなければならないと思って、磯五は、お世辞をつかった。
「うまく食わせるじゃないか。見上げた腕前だぜ。前はどこにいたんだ」
「どこといって、べつに――以前は石町《こくちょう》のほうにいたこともありますが」
「石町の大|提燈《ち
前へ
次へ
全552ページ中257ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング