がれた酒を、ほとんど一息にのみほした。さかづきを置く手が、ぶるぶるふるえていた。それきり下を向いて黙りこんでしまった。
久助は、老爺《おやじ》ではあったが、そういう宴席のとりなしなどは、巧みなものであった。口数をきかずに用が足りて、万事によく気が届くのであった。久助の下に、ふたりの小婢《こおんな》が出て来て、酒と料理をはこんだ。そのおんなたちも、おせい様がやかましいので、立ち居ふるまいもしとやかであった。
磯五の酌はおせい様が引きうけて、器用に銚子《ちょうし》を持っていた。料理は、素人《しろうと》の家のものとは思えないほど、立派なものであった。お駒ちゃんが気分がわるいことで宴はちょっと腰を折られたが、久助とおんなたちは、何ごともなかったようにそこらを斡旋《あっせん》した。磯五とおせい様も、すぐのんびりした気もちになって箸と酒杯《さかずき》をかわるがわる動かしていた。
世間ばなしがはじまって、この小宴は楽しいものになりそうだった。
二
久助のやり方がすべて気がきいているので、おせい様は磯五を見て、何度も満足そうにほほえんだ。それは、こういう拾いものをしたという、主
前へ
次へ
全552ページ中254ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング