鼻をかみ出した。夢をみたようにぽかんとして、部屋の隅に眼を凝らしているのだ。
 泣いている女は、磯五にとって、いちばんあつかいやすいのである。なみだをふいてやって、やさしいことばを耳へ吹きこみさえすれば、こんどはべつの感情で、彼女の胸をふくらませることができるというのである。磯五は、そのとおりに、お駒ちゃんの眼をわざとじゃけんにふいてやって、耳もとでささやいた。
「さあさあ、しっかりしろい。早合点するものじゃあねえよ」

      七

「何だ、眼がまっかじゃあないか。可哀そうに」
「可哀そうにもないもんだ。自分が泣かせておいて」
「だから、それが、早合点だというのだ。いま来た、あの女は、おしんといって、新規にやとったお針頭だが、はじめのうち、とんでもねえ人ちがいをしやがって、いや、笑わせもんさ。麻布の馬場やしきだことの、高音とかいうおかみさんだことのと、めりはり[#「めりはり」に傍点]の合わねえことばかりいっていたが、やっとあとでまちがいとわかってな、今度は、平蜘蛛《ひらぐも》のようなあやまりようよ。おめえに見せたら、ふきだすところだったぜ」
「それでは、あの、お前さんに女房がある
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