ぬこと。ま、許してもらおう。ははははは」
若松屋は、意地わるく出るのを、押えることができないのだ。
三
「旦那様、どうぞ一とおりお聞きくださいまし」
泪《なみだ》に光った顔は、庭の松の樹の反映で、惣七にはみどり色にうつった。惣七はそれを不思議なものと見た。
「聞く――必要もあるまいが、ま、聞きましょう。しかしわたしを泣き落として、その二百五十両を払わせようと思っているなら、むだだ。よしたがよい。理由のないところに出す金は、わしには、一文たりともないのだ」
「まあ! 決してそんな――」
「気はないというのだな。ははははは、それで、大きに安心いたしたよ。何でも聞きましょう」
「払えるつもりで――払う目当てがあって、買ったのでございます」
「高音どの、お前さまはいったい、何者なのだ?」
「どうぞ、高音とだけは、お呼びくださいますな。いまのわたくしは、ほんとに、ただの高なのでございます」
「それは、まあ、どっちでもよいが――」
「わたくし、自分のお金といっていいものを、二千両ばかり、もっていたのでございます。けれど、どうしてあのとき、あんなに衣裳《いしょう》に浮き身をやつし
前へ
次へ
全552ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング