だぜ」
「おや、そうかい。これが、れっきとした老舗なのかい。それは、それは、すまなかったねえ」
 お駒ちゃんが、叫ぶように、そうゆがんだ声をあげたとき、するするとふすまがあいて、きょうはじめて住み込みに来た、お針|頭《がしら》のおしんという、三十二、三のちょいときれいな女が、はいって来た。
 磯五のところへ、挨拶に顔を出したのだ。
「あら、まあ、旦那――」
 おしんの口から、おどろきの声が、逃げた。


    鼎《かなえ》の座


      一

 沈黙が、お高をとらえた。湯のような熱いものが、なみなみと彼女の胸にあふれた。それは、驚愕の感情だ。恐怖でさえあった。龍造寺主計がじぶんを恋するなどと、夢にも思わなかったことだ。同時にそうして無言でいるお高のこころに、やわらかい、あわれむようなおかしみが、一筋めらめらと燃え上がってきた。お高は、相手があしたたつといういま、それをいいにぶらりと自分の居間へやって来たのだと思うと、べつに悪い意味からではなく、ただちょっとふき出したくなった。
 二つの考えが、その瞬間のお高を走り過ぎた。一つは、この龍造寺主計という人は、諸国を流浪して人にもまれ
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