めなかった。
「さようでございますかねえ、これでも」
「それに、お高どのは、なかなか手まめで、たしなみがよいから、こういうおなごを嫁に持つ男は、しあわせだな」
「まあ、龍造寺さまは、おひと柄に似ず、お口がお上手《じょうず》でいらっしゃいます」
「いや、あんたに、大きな宿屋の采配《さいはい》をふるわせてみても、面白いであろうと思う。たとえば、掛川の具足屋のような」
「こんにちは、いろいろとおほめをいただきまして――」
 お高は、縫っているもので口をかくして、笑った。龍造寺主計は、まじめであった。
「わしは、あす、掛川へ参る」
「ほんと、なみたいていではございません。若松屋さまも、おかげさまで、立ちなおりましてございます」
「いや、わたしこそ、礼をいわねばならぬ。宿場の旅籠の亭主にしろ、何にしろ、わたしという年来の風来坊の腰がすわれば、このうえのことはない。みな、あんたが打ちあけて話してくれたおかげであると、思っておる」
「いいえ。そんなことはございませんが、でも、掛川のほうがうまくゆきますと、よろしゅうございますけれどねえ」
「うまくゆくも、ゆかぬもない。うまくやるようにするのだ。わたし
前へ 次へ
全552ページ中218ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング