「この若松屋の名と、両替の店を、暖簾《のれん》ごと手放すのだ、買い手のこころ当たりも、ないことはない」
「では、どうあっても――」
 お高の顔いろが変わった。眼がすぐ泪《なみだ》で光って来たとき、
「若松屋惣七殿ですか。龍造寺主計と申します」
 声が、絹雨の縁側から上がってきた。背負ってきたふろしき包みからでも出したのだろう。龍造寺主計は、旅装束を着かえているのだ。
 若松屋惣七が、声のするほうへ向かって、ちょっと衣紋をつくろっているうちに、龍造寺主計は、さっさと部屋へはいって来て、すわってしまった。
「若松屋惣七でございます」
 若松屋惣七は、かるく頭をさげた。誰にむかっても、低くあたまを下げないのが、若松屋惣七なのだ。
「せっかくの御光来に、他行をしておりまして、失礼をいたしました」
「いや、わたしこそお留守に上がって泊まりこんで――」
 龍造寺主計は、そういって、若松屋惣七とお高の顔を、見くらべた。
「何です。お取りこみな。お邪魔なら、また後刻――」
 おどろいたようにいって、たちかけた。


    水ぬるむころ


      一

 お高は、若松屋惣七が、どうしても若松屋
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