、磯五がおりますことを、もうご存じでいらっしゃいましょうね」
「迂濶《うかつ》なようじゃが」若松屋惣七は、無表情な顔のまま「ゆうべはじめて知った。驚いた」
 が、べつにたいして驚いたふうもなく、見えない眼を小雨の庭へ向けて、身じろぎもしないのだ。連日奔走ののちの虚脱した気もちにいるに相違ない。
 お高は、いざり寄った。
「わたくしは、おせい様のお手紙で、前から存じておりましてございます。できることなら、おせい様に思いとどまっていただこうと存じまして、いろいろと骨を折りましてございましたが――」
「そういうことであろうと、思っておった。わたしはお前が帰ったあと、おせい様の家へ出かけて行って、膝詰め談判をしてみた。すべてむだであった。おせい様は、磯五と夫婦になる気でおる。女子というものは、愚なものだな。磯五に妻のあることを、わしは話してやったぞ」
「あら、わたくしのことを――?」
「いや、いや」若松屋惣七はしお辛い笑いだ。「お前という名は出さぬ」
「はい」お高は、ほっとして、
「わたくしも、そこまではいえませんでございましたが、きのうは、磯五さんがおどかしに参りましたので、わたくしのほうか
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