ますでございます。わたくしも、ちょっと他行《たぎょう》をいたしまして、ただいま戻りましたところでございます。失礼をいたしました」
 いいながら、お高は、龍造寺主計を観察した。龍造寺主計は、笠《かさ》と草鞋《わらじ》をとっただけで、旅装束のままである。はだしの指のあいだに、土のような真っ黒なごみがたまっているのが見える。枕《まくら》にしていたらしく、おかしいほど長い、無反《むそ》りの刀が、あたまのほうに置いてあるのだ。汗と陽のにおいが、お高の鼻へただよってくるような気がした。
 お高が、江戸で見慣れている武士とは、全然違った型なのだ。陽にやけた顔に、あばたがいっぱい浮き出ているのだが、お高は、何だか、男らしい立派な人だと思った。
 先方が口を切るのを、お高は待った。龍造寺主計が、いい出していた。ふとい短い頸《くび》から、うがいをするように出てくる声だ。
「留守に上がりこんで、すみませぬ。先ほど江戸へ着いたばかりだ。さっそく若松屋惣七どのにお眼にかかりたいと存じて、推参いたした」
「あの、旦那さまのおしりあいの方でいらっしゃいましょうか」
「あんたは、こちらのお内儀かな?」
 お高は、あか
前へ 次へ
全552ページ中160ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング