と混迷の極から、お駒は、急に立ちなおってきた。すっかりおちつきを取りもどして、しずかに、お民のほうへすわり直した。
「吉田屋さんのお内儀さんでいらっしゃいますか。何かわたしを、お安とかいう女と取りちがえていらっしゃるようでございますが、わたしは、いまおせい様がおっしゃいましたとおり、この、ここにおります日本橋式部小路の太物商、磯屋五兵衛の妹、駒でございます。
 人ちがいもお愛嬌《あいきょう》かもしれませんが、ぬすっとう女だの、お目見得泥棒だことのと、おまちがいにきまっていますからこそ、こうして黙って聞いておりますものの、あんまりなおことばではございますまいか」
「まあ、あきれた。これ、お安、お前は、うちへ住みこんだときも、その口で、わたしをちょろりとだましたんだったね」
「何でございますと? わたしは、その、お安とやらではございません。磯屋の妹の――」
「はい。わかっておりますよ。磯屋の妹のお駒さんに化けこんで――」
「まだおっしゃる。もう一度、お安などとおっしゃると、承知いたしません」
「ええ、ええ、何度でもいいますとも。お安だからお安だというのに、何かさしつかえでもあるのですかね」
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