いたましくて、口まで出かかっても、いえないでいるのである。が、これをいわない以上、おせい様は、お高のことばを取り上げるふうもないのだ。
たとえおせい様が、これでいささかのうたがいを起こして、直接磯五に事の真偽をたしかめるとしても、磯五として、おべんちゃら一つでおせい様を丸め直すことは、すこしもむつかしいことでないにきまっている。そして、おせい様はいっそう、ちかいうちに磯屋のお内儀に迎えられることと信じこんで、ますます矢のような催促を、若松屋惣七へ向けるであろう。
しかたがない。いってしまおうと、お高は思った。
「じつは、わたくしが――」
やっぱり、いいよどんだ。おせい様は、いつのまにか、もとどおりにこにこ[#「にこにこ」に傍点]していた。おだやかに、お高のことばをくり返して、促した。
「はい。あなた様が――?」
「はい。あの、じつは、わたくしが――」
そこへ、さっき取り次ぎに出た十六、七の小女があらわれた。小女は、縁側の障子のかげに指をついて、いった。
「あの、磯屋五兵衛様がお妹さまをおつれになって、お見えになりましてございます」
五
お高は、反射的に、たちあ
前へ
次へ
全552ページ中129ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング