っけにとられた人々の顔が、まわりにあった。
 吉良は口がきけなかった。なんという暴!――もはや、これまでだと思った。
「美濃、待てっ!」
 叫んだ――ような気がした。同時に、家を捨て、身を忘れて、腰の小さな刀に手を――かけた自分を、とっさに、想像してみた。
 美濃守は、すでに、平気で、むこうへ歩いて行こうとしていた。
 刃傷《にんじょう》だった。吉良は、それを、一瞬にこころに描いた。
 殿中だった。松の廊下だった。たとえ誤ちでも、鯉口《こいぐち》三寸ひろげれば、大変なことになるのだった。
 が、勘忍《かんにん》ぶくろの緒《お》が切れた。じぶんは、どうなってもよかった。乱心といわれても、切腹でも、そんなことは、かまっていられなかった。
 吉良は、心中に、刀を抜いた。そして、恨み重なる美濃守へ斬りつけるところを、考えた。
 松の廊下――ちょうど、隅の柱六本目のかげだった。
 初太刀《しょだち》は、烏帽子の金具に当って、流れた。二の太刀は、伸びて肩先へ行った。
 美濃は、逃げようとして、戸にぶつかって倒れた。起き上ろうとするところを、ここだ、と振り下ろしたが、その時、吉良は、うしろから、しっ
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