かり抱きとめられているのを知った。梶川《かじかわ》与惣兵衛《よそべえ》だった。大力の人で、すっかり羽掻《はが》い締《じ》めに、うごきが取れなかった――吉良は、身をゆすぶった。
「残念――。」
「いかがめされた、吉良殿!」
 ゆらゆらと立っていた吉良だった。梶川与惣兵衛が、にこにこして、うしろから手を廻して支えていてくれた。
「抛《ほう》り上げられて、眼が廻ります。どうも乱暴だ。」
「いくら天奏衆の御機嫌を取り結ぶのが饗応役とはいえ、御老体を――。」梶川は笑った。「歩けますかな?」
 吉良も、仕方なしに、苦笑していた。
「まったく、美濃殿は、いささか荒いようです。」
 勅使に随《つ》いて、廊下の端に、美濃守のすがたが小さく見えていた。



底本:「一人三人全集2[#「2」はローマ数字、1−13−22]時代小説丹下左膳」河出書房新社
   1970(昭和45)年4月15日初版発行
入力:奥村正明
校正:小林繁雄
2002年12月3日作成
2008年3月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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