、いや、職人泣かせでしたよ、まったく。」
「うなずかれる――。」
「吉良のお殿様が、何を思いたって、こんな途方もねえものをお誂えになったか知らねえが――。」御影堂は、急に、声を落とした。
「噂ですぜ。うわさだから、間違ったらごめんなさい。お妾が、いうことを肯かねえで、こんな変ったものを考え出して、それができたら、へへへへ――するてえと、今まで殿様あお預けを食ってらしったんですね。ざまあねえや。道理で、値は構わねえから、早く、早くと――。」
「松がまた、よく描けておるな。」
辰馬は、扇を手にして、眼のさきにかざしてみた。
「細かい松じゃな。うむ、どこからどこまで、いい細工《さいく》だて――これで、松の数は、三万三千三百三十三あるのか。」
「ございますとも。虫眼鏡で、お算え下さいまし――殿様がお待ちかねです。あっしも、もうすこし、ゆっくり見ていてえが、お持ち帰り願いましょう。」
「見れば、見るほど精巧なる出来栄に、殿も、およろこび下さろう。代は、後から屋敷へ取りにまいれ。」
「ええ、そんなもの、いつだって――。」
歩きかけた辰馬の手から、自然らしく、扇が落ちて、土間を打った。
辰馬が
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