役の美濃である。一応、眼を通しておかなければ、不都合だ。さし出すがよい。」
眼に見えて、吉良は、ふるえてきた。
「ござらぬ。」
「紛失いたしたな。」
「いや、持っておる。が、このほうは高家筆頭じゃ。わしが見ておれば、それで充分。お手前に関係したことではない。」
「なに、御饗応のお次第書が、本役のおれの知ったことではないと――。」
吉良は、生えぎわに汗を見せて、
「まあさ、そう大きな声をされんでも――今にも天奏衆がお着きになる。その銅鑼声《どらごえ》がお耳にはいっては、おそれ多い。」
が、美濃守は、たたみかけるように、
「御老中連名のお次第書だ。天奏衆御出発の用意等、出ておるであろう。こちらから老中へ返納いたす。出せ!」
どうして、お次第書などというものがあることを、この美濃は知っているのだろう――吉良は、相手になるまいとした。
美濃守は、にやりとして、
「これだけの心得がなくて、本役をお受けできるか――勅使両山御霊屋へ御参詣、お目付お徒士頭《かちがしら》が出る。定例じゃぞ。十三日が、天奏衆御馳走のお能。高砂《たかさご》に、三番叟《さんばそう》。名人鷺太夫がつとめる。御三家、老
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