、本人のお糸への、意地もあった。
 何だか、考えこんでいる吉良を見ていて、糸重は、良人の辰馬の顔を思い出してみた。同時に、吉良が気の毒のような感情も、ふっと横切ったりした。
 糸重は、泣いていた。
 吉良が、いつになくやさしく、
「何を泣く――?」
 一寸|逃《のが》れを、いわなければならなかった。
「ほしいものがございます。それさえ下されましたら――。」
「ほほう、物が欲しい。」吉良は、にこにこして、「子供よのう。必ずともに寵愛いたす――との証拠《しるし》にな。面白いぞ。して何が所望《しょもう》じゃ。」
 とっさの思いつきに、困って、
「あの――。」
 と、部屋中を走った糸重の視線は、違い棚の扇箱にとまった。
「あれか。はっはっは、あの扇箱か。」
 糸重は、あわてた。
「はい――いえ、あれに、扇をお入れ下さいまして――そうして、その扇に、ちょっと好みがございます。」
 ほっとして、いった。

      三

「骨は――と、木を用いて、変り材のごとく観すること、か。厄介なことを思いつきやがったなあ!」
 職人のひとり言だった。
 吉良からの注文書を置くと、すぐ、奇科百種新述《きかひゃ
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