、媚《こび》を、と、ぞっとした。
 刺し殺したいほど、吉良への憎悪に燃えた。
「ただ、何だ――それなら、なぜ肯《き》かれぬ、と申すのじゃ。」
 蒲団にすわった吉良は、みょうに白けた顔で、眼が、異常に光っていた。
 はらわれた手のやり場に困って、襟をかき合わせた。
 乾いた音だった。
「妾が――意に添うも添わぬもないはず。理由《わけ》を申してみい。」
 いつものように、吉良の就寝を見て、自室《へや》へ引きとろうとしていた糸重だった。軽くあらそった衣紋の崩れをなおして、夜着の裾のほうに、遠くすわっていた。
「わけと申して、べつに――。」
 吉良は、何気なくよそおっていた。が、老人《としより》らしくもなく、手出しして拒《は》ねられたという照れ臭さが、寝巻きの肩のあたりに見られた。
 しかし、お糸は、はじめから妾に来たのだった。妾に、こんな手間ひまのかかる女が、あってもいいものだろうか、と、吉良は、不思議な気がした。ばかばかしく思った。
 いっそ暇を――が、そうもならなかった。それは、たんに未知へのあこがれかもしれなかったが、いつの間にか、愛着らしいもののできているのも、いなめなかった。平茂と
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