良は、礼のための礼のように、冷淡をよそおっても、出雲守へ好意を示したいこころが、声に滲《にじ》んでいた。
「お役上、何か御不審でも――。」
「は。御饗応にさし上げますお料理のことでございます。」
「その料理を――。」
「当日は、清らかなお席、生臭《なまぐさ》を断《た》って精進《しょうじん》精物でございましょうか。」
「いや、精物というは、潔《きよ》きものという意です。堂上方が、初春慶賀のため御下向なさる。たとえ精進日であっても、江戸お着の当日は必ず御精進はいたされません。魚類は結構、と申すより、魚類でなければなりません。」
「ありがとうございました。じつは、お精進ものであると申すものと、いや、魚類だという者と、二派に別れまして――そのため、たしかなことを承《うけたまわ》りに上りましたようなわけで。」
 吉良は、権威者らしい微笑を漂わせていた。
「精進だなどと、どなたがそんなことをいったかしらんが、断じて精進ではない。今申したように、精進日でも、魚類です。」
 吉良の背ろに控えているお糸が、玉虫と同じように、終始緊張して聴いていた。
 礼を述べて、起とうとする玉虫へ、吉良が、いった。

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