元来このお役は、難しいといえばいうようなものの、先例もあり、いくらお手前でも、万事は上野《こうずけ》が引き受けます。お指図をいたしますから、何なりとお訊き下すって、大丈夫安心いたされまするよう。一度ならず丁寧な御挨拶に預かり、かえって痛みいります。出雲殿へ、よろしく、申し伝えられたい。」
 お糸は、何か胸中にうなずいている態《てい》で、玉虫を送りに、つづいた。


   親抱きの松

      一

 饗応役の打合せに当てられた、城中の仕度部屋だった。
 不意の声が、美濃守の首を捻《ね》じ向けた。
「岡部殿!」
 吉良だった。
 美濃守は、無言で、眼で訊いた。
「――――。」
「お手前は、私に何ごともお尋ねないが、元より御本役をお引受けなされたくらい、万事心得ておらるるであろうの。」
 うそぶくように、美濃守が、
「ところが、何も知らぬ。われながら、笑止。」
「とすましておられて、それでよいのか。」
「よいも悪いも、知らぬことはどうにもならぬげな。」
 憎さげに口びるを噛んで、吉良は、もう、顔いろが変りかけてきた。
「知らぬことは、どうにもならぬ? よく、さような口が――。」
「が、
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