十寸見が、不思議そうに、無言の顔を見合わせていると、美濃守が、神経をぴりりとさせて、
「早くせぬか。吉良は吉良、おれにはおれのやり方がある。」
 そんなら訊かせになどやらなければいいのに、と、久野と十寸見は、不平だった。

      四

 広光院の内玄関に、人声が沸いて、吉良の一行が着いた。勅使の宿舎を、下検分に来たのだった。
 その天奏の江戸入りの日も、近かった。吉良は、先日岡部から、この宿坊のことを訊きに来たとき、ざっと掃くくらいでよいといってやってあるので、手入れなどは何もできていないであろうから、それを機会《きっかけ》に、美濃守をとっちめてやろうと、いくぶん今日をたのしみにしていた。
 いうまでもなく、とり換え得るものはすべて新しくして、隅ずみまで細かい注意を払っておくべきなのだった。
 今日になって騒いだとて、もうお着の日が迫っている。間に合わぬ――吉良は、完全に美濃守に復讐した気で、久しぶりに晴ればれと、広光院の門を潜った。
 が、まず庭に、見事に手が届いているのが、吉良の腑《ふ》に落ちなかった。そして玄関をはいると、新壁《あらかべ》と、あたらしい畳のにおいが、鼻をつい
前へ 次へ
全47ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング