ありますはずです。」
外記は、そんなことだろうと思っていたといったように、せかせかと鈴を振って、用人を呼んだ。
四
野武士めいた、肩幅の広い美濃守のうしろ姿を、吉良が、憎悪をこめて凝視《みつ》めている時、美濃守が、ふり返った。
眼が合うと、両方が立ち停まって、しげしげと眺めあった。それは、たがいに、珍奇きわまる生物を発見したとでもいうような、やゆ[#「やゆ」に傍点]と敵意の交錯した、視線の戦争だった。
吉良を見上げ見下ろしながら、美濃守が、厚い胸を張って、近づいて来た。
城の廊下で、いそがしく往き交《か》う役人や坊主の影が、壁に明るかった。
「吉良殿、自分は、勅使取持役は不調法です、よろしく。」
吉良は、傍《わき》を向いて、小声に、いわでものことをいった。
「不調法なものを、なぜお受けなされた。」
美濃守が、聞き咎めた。
「これは、異なことを! 上野介殿はそのほうは専門家であるから、万事お手前の指図を仰ぐように、という、土屋相模守殿のお言葉添えがあったればこそ、お引受けしたものを――それを、とやかくいわるるなら、拙者は、これより相模守殿に申達して――。」
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