ざ頼みにきたことを、どう切り出していいかわからなくなった。で、黙っていると、外記がひとりでつづけて、
「気骨が折れて、出金が多い。それで、無事勤めたところで、戦場一番槍ほどの功にはならんのですから、一生に一度の、まず名誉かもしらんが、正直、ありがたくありませんな。ところで、申すまでもなく、そこらに抜かりはありますまいが、吉良さまのほうへ、いくらかお遣《つか》わしになった――。」
辰馬は、待っていた話題が来たので、四角くなった。
「兄に、何か考えがあるとみえて、吉良への進物は断じてならぬと申しますので、困っております。」
外記は、ぎょっとしたように、
「岡部様らしい。が、それはいかん。それは、危ない。」
「それにつきまして、じつは――。」
「最初の贈り額《だか》がたりませんでな。手前の主人も、さんざ吉良様にいじめ抜かれ、すんでのことで刃傷《にんじょう》におよぶところ、手前が、遅ればせに、例の天瓜冬の届け直しをやって、はははは――。」
「おそれいりますが、」辰馬は、やっと用を口に出した。
「昨年の勅使お日取りが、お手元にありましたら、ちょっと借覧願いたいのですが――。」
「お易い御用。
前へ
次へ
全47ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング