井川の川止め、江戸へ出ると三社前の水茶屋女、見覚えのある編笠姿、たそや行燈、見返り柳、老父の病いを癒すべく朝鮮人蔘を得るための娘の身売り、それを助ける若侍、話し合ってみればそれが幼時に別れた兄妹、それから手掛りがついて仇敵の所在がわかり、そこで鎖帷子《くさりかたびら》、名乗り合い、本懐遂げて帰参のよろこび、国許に待つ許婚と三々九度といったようなどれもこれも同じようなものであった。忍術とか鬼火、妖狐、白髪の仙人、夢枕というような場面が全巻いたるところに散見して、一様に血みどろの暗い物語であった。
貼外題《はりげだい》の黄色がいつからともなく表紙の色となって一般に黄表紙と呼ばれるようになってから、仇うち物の血生臭さはいっそう度を増したように思われた。長さも長くなった。一冊の紙数五枚となっていたのを幾巻か合わせるようになってこれを合巻と呼んだ。長いほうが読みでがあるので合巻は歓迎された。草双紙とも絵草紙ともいったがそれはともに合巻を指した。京伝の義弟山東京山がその作「先読《まずよんで》三国小女郎」のなかで「今じゃ合巻といえば子供までが草双紙のことだと思いやす」とある、これは文化九年のことだ
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