ついた。
それはこの雅言集覧などにはおよそ収録することのできない、巷の埃《ほこ》り臭い言語だと思った。だが、その生活という言葉のどこかに生々しい光沢《つや》があって、それが六樹園に今まで知らなかった新しい光りものを見せられたような感じを起させた。
はじめから気持が食い違って主客はちょっと気まずい無言をつづけていた。
ややあって六樹園が言った。
「仇討ち物の流行はどうです。いくら女子供相手の草双紙《くさぞうし》でも、あの荒唐無稽ぶりは私は許せないと思います。睡気ざましの、いや、夜床の中で眠気を誘うための読物だからとて、ああまで時代の考証を無視していいものだとは下拙《げせつ》には考えられませぬ。面白ければいいのだという考えが間違っているのだと私は思う。考証を蹂躙《じゅうりん》しては拙などにはいっこう面白くござらぬ。考証も尊び、面白くもあるという風にはまいらぬものでしょうか。読物としての興味と考証の尊重とが相反するとは私にはどうしても思われませぬが。」
すると三馬はこんな言葉を吐いた。
「いや、考証を尊んでは面白い物は絶対に書けやせんね。考証と読物の興味とは永遠の喧嘩相手でげす。あっ
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