常の貴公らしゅうもない。外《はず》れつづきに、なんだなすこうし逆上《のぼ》せかげんじゃな。笑止はっはっはっはっ。」
笑ってしまってから、これはすこし過ぎたかな、と思ったが、もう遅い。怒ると吃《ども》る癖のある甚吾は、
「な、な、な、な――。」
と首を振り立てた。そこを、
「青江じゃ。為次じゃこれは。」
と十郎兵衛は会主を見た。すると、不思議なことには、会主がにっこり頷首《うなず》いたものだ。
また、十郎兵衛の半あてずっぽうが的中したのである。
今日はみょうな日だな――十郎兵衛は思った。そして、よせばいいのに、かれ一流の皮肉に見える微笑みとともに、
「寺中、もはや兜を脱いだがよかろう。」
と言いかけると、
「ぶ、ぶ、ぶ。」
無礼者とか何とか言うつもりだったんだろう、甚吾が口早に吃った。それがおかしかったので、父親の葬儀で読経中に吹き出したほどの十郎兵衛だから、思わずぷっ[#「ぷっ」に傍点]と噴飯してわっはっは[#「わっはっは」に傍点]と笑おうとした。
甚吾の手がむずと面前《まえ》の茶碗を掴んだ。一同ちょっと膝を立てた。十郎兵衛は笑いを引っこめた。
「貴公、それを俺に、投げ
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