守っていると、刀身の三分の二手元へ近い、その道で腰と称するところに、横にかすかに疵があるのが眼についた。さっき甚吾が切込みと指摘したのはこれである。
切込みとは戦場で敵の刀を受けた痕のことで、疵は疵だが賞美すべきもの。だが、ここに、この切込みに似ておおいに非なる純粋の疵に、刃切れというのがある。これはすべて横にある焼疵で、一つでも結構ありがたくないが、こいつがいっしょに幾つもあると、それを百足《むかで》しなん[#「しなん」に傍点]と呼んで、ことある際に折れるかもしれぬとあってもっとも忌みきらったものだ。
いま十郎兵衛が、この疵を見ていると、だんだんそれが、切込みではなくて、刃切れも刃切れ、百足《むかで》しなん[#「しなん」に傍点]のように思えてきた。
「はてな。」
と彼は大仰に眉をひそめた。
「どうじゃ、粟田口であろう。」
甚吾が詰め寄る。
「その切込みは――。」
「これは切込みではござらぬ。」
あんまりきっぱり[#「きっぱり」に傍点]した自分の言葉に、十郎兵衛は自分で驚いた。が、それと同時に、すっかり度胸が据わって、
「これはこれ、百足じゃ。百足を切込みと見誤るなぞ、寺中、
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