! 抜いたついでだ。見てやる。これ! 見せろっ!
郁之進 いえ、いえ――。(逃げようとする)
播磨 かまわぬ見せろというに!
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と刀を取ろうとする途端、不意に、何ものか乗り移ったごとき郁之進、すらりと右手に景光を抜き放つ。
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加世 あれ!
郁之進 家宝の一刀に由なき傷をつけたのみか、こ、この私めが、あろうことか、殿に対して害心を蔵するようなかの奎堂の言い草。彼をこのままにさしおいては、臣下の一分が立ちませぬ。この郁之進の胸が納まりませぬ。おのれ! 久保奎堂を真っ二つに――。
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憑《つ》きものでもしたように、抜刀を提げたまま、よろよろと廊下へ出ようとする。
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播磨 待て! (追い縋《すが》って留める)
郁之進 (争って)いえ、この多門三郎景光、はたして凶相か吉相か、久保奎堂の身体《からだ》に問うてみるのですっ! 殿、お放し下さいっ。
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刀を振り被《かぶ》って行かんとする。立ち塞がる播磨
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