に!
郁之進 いいえ! おわかりではござりませぬ。刀に善悪はないのです。帯びる者の心で、凶相にも吉相にもなるのですっ。
播磨 (上機嫌に)よくぞ申した。そうだとも、そうだとも! そちの言うとおり。
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起って、ぴたりと郁之進の前へ来て坐る。
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播磨 刀を見せい。ささその主殺しの相あるという景光を、余は見たい。
郁之進 (恐懼して)いえ! とんでもござりませぬ。さような悪剣と観相されました以上、なにとぞ御免を――。
播磨 大事ない。これ、見せろというに!
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と刀に手をかけて、引き寄せようとする。郁之進は必死に刀を押さえて、尻込みする途端、立ちかけた彼の手から、下に向けた柄の重みで、さっと鞘を辷って刀身が流れ出る。
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播磨 (ぎょっと身を押し反らして)やっ! 抜いたな!
郁之進 (狼狽をきわめて)いえ! 抜いたのではござりませぬ。ひとりでに鞘走りして、これは、何とも申訳ない粗相を――。
播磨 いや、抜いた抜いた
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