。この悪剣が、将軍家代々の御宝刀とは、いかなる訳でございましょうか。
播磨 (にこにこして)わかっておる。余も刀相などは信ぜぬよ。
郁之進 (がたがた顫えつつ)刀というものは、君を守護し、また一身を守る道具。持ち主の心忠義に存すれば、刀も忠義のために働き、持ち主にして邪念不道なれば――。
播磨 五月蠅《うるさ》いっ! つべこべ言うな。刀相などどうでもよい。余がその刀に事寄せて、そちと二人きりになりたかったのは、じつは、この加世のことだが――。
[#ここから3字下げ]
この時庭からの風で、ふっと燭台の灯一つ二つ消えて、あたり薄暗くなる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
郁之進 (独り言のように、陰々と)持ち主にして邪念無道なれば、刀もまた悪しき方へ役立つものと、愚考いたします。
播磨 (乗りだして)邪念無道? いや! なんでもよい。これ! 郁之進、この加世はなあ、この加世は――。
郁之進 (その播磨守の声を耳に入れまいと、呪文のように)いえ、その女めは、失礼ながら殿へ献上仕りましたもの――要は、刀に善悪なくして――。
播磨 ええい、解っておるという
前へ
次へ
全36ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング