稲生播磨守
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)小石川御箪笥町《こいしかわおたんすまち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)中小姓|税所郁之進《さいしょいくのしん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うそ[#「うそ」に傍点]心もあるものか
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天保のすえ、小石川御箪笥町《こいしかわおたんすまち》の稲生播磨守《いのうはりまのかみ》の上屋敷。
諸士の出入りする通用門につづく築地塀《ついじべい》の陰。夕方。杉、八《や》つ手《で》などの植込みの根方に、中小姓|税所郁之進《さいしょいくのしん》と、同じく中小姓池田、森の三人が、しゃがんで話しこんでいる。
池田は昂奮し、税所郁之進は蒼白《まっさお》な顔で、腕を組み、うなだれている。
[#ここで字下げ終わり]

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池田 君主は舟、臣は水。舟を浮かべるは水なり。舟を覆すもまた水なり。為政者《いせいしゃ》の心すべきところだ。それだのに殿は――。
森 しっ! 人に聞かれたらどうする。税所の迷惑を考えろ。

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