す。(奎堂へ涙声で)これ! 刀相などと、好い加減なことを並べて、私の刀が殿に崇りをなすとは、む、無責任――め、迷惑にもほどがある! と、取消して下さい! 取消せ!
矢沢 他藩の高名なる大先生なるぞ。取り逆上《のぼ》せるな、郁之進! 言葉を謹しめっ!
奎堂 (郁之進へ)いや、ごもっとも。あなたよりも、私が否定したいのです。鑑識《めがね》ちがいではないか、どうかそうあってくれればよいがと、御覧のとおり、何度見直したか知れぬ。が、見れば見るほど――さよう、明鏡のごとき観相の表を私情で曇らし、白を黒と言うことは、刀相に生くる拙者にはでき申さぬ! この多門三郎景光には、たしかに君を害し奉る相がある。うむ、秘かに殿に害心を抱く刀と観た。
播磨 なに、余に対して害心とな――?
郁之進 (おろおろして)あまりと言えば、あまりな! (播磨へ)殿! 御座興の一端と、お聞き流しを願いまする。奎堂先生はわたくしに、いかなるお怨みがあって、かような――。
奎堂 私心はござらぬ。刀相に現れしところを、そのまま申し述べたまで。
郁之進 いいや! お眼の誤ちでございます。この刀は、祖父から伝来のもので、父|臨終《いま
前へ
次へ
全36ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング